含み益6000万円が教える決算書の読み方のキソ⑤【CF】
前回は,PLをみました。
引き続き,第一興商を例にとり,キャッシュフロー計算書(CF)をみていきます。
その前に,キソを説明しておきます。
会計上の売上ひいては利益は,現金の流れとは異なることがあります。
たとえば,あなたが1000万円のカラオケ機器を、売ったとしましょう。
現金商売ですぐに1000万円入るというのは稀で,2カ月後とかにようやく1000万円が入るわけ。
ただし,会計上の売上としては,出荷したときや相手が検品したときなどに,「1000万円の売上がありました」とするの(売掛金として計上)。まだ現金で入っていないのに!
ここで,「売上あがったけど現金は入っていない」という、売上と現金の動きのズレが生じます。
粉飾企業では,「会計上の売上や利益は多いけど,現金がやたら入ってこない」というものが多いのです。
会計上の利益は納品書や請求書を偽造すれば誤魔化せます。しかし、物理的にカウントできる現金をごまかすのは難しい。
ということで,BS,PLと併せてチェックすると吉
ごまかしにくい、現金収入の実力がわかります。
まずは営業CF,つまり,「本業でどれだけ現金をゲットしたか」。
会計上の利益をベースに,
「これは会計上の利益にはなったけど,現金動いてないよね」
「これは会計上の利益と関係ないけど,現金動いたよね」
というものを加減算していくスタイルで,現金の流れをうきぼりにします。
だから,一番上には会計上の利益がきます。
おおきい数字や変化をチェックしていきましょう。
減価償却費で、156億円プラス補正。
「減価償却費は,費用として計上されているが,現金としては動いていない(固定資産を買ったときに支払済み)なので,会計上の利益に現金を足し戻します。別に、現金,減っていないんで」
たな卸資産で、23億円マイナス補正。
「在庫商品を仕入れた。まだ経費(原価)に計上してないけど,現金が23億円減りました」
前渡金で、15億円マイナス補正。
「在庫商品を仕入れたので,既に前金として払った前渡金が,売上原価として計上されています。が,現金としては動いていない(前期に支払済み)ので,会計上の利益に現金を15億円,たしもどします。現金,減ってないんで」
仕入債務で、14億円プラス補正。
「14億円,商品を仕入れたけど,まだ払ってないので現金は動いていない。会計上の利益に現金を14億円,たしもどします。現金,減ってないんで」
・・・・在庫がらみのネタが多いですね。
在庫が増えたことがCFにもあらわれているのかな。
つぎは,投資CF。
土地建物を買ったとか,パソコンソフトを買ったとか。
投資CFは単純に、現金流出をマイナスし、現金流入をプラスするのみです。
大きな数字や変化をみていくと。
営業CFと同じく,前期の固定資産売却収入89億円は消えています(※営業CFは,「本業による現金移動」なので,いったん営業CFでマイナスし,投資CFでプラス扱いにしてある)。
映像使用許諾権の支出が1.4倍になってますね。カラオケ中に流れる画像のことかしら?これが原価上昇の一因かも。
必ずチェックしなければならないのが,営業CF>投資CFかどうか。
つまり,本業の儲け以内で,投資つまり建物だのパソコンだのを買えているかどうか。
これが,営業CF<投資CFだと,現金が足りないので,借金して補う必要がでてきます。
基本は,「収入の範囲内で生活する」という営業CF>投資CFが健全なかたち。
(ただし,成長産業や設備投資が重い産業は,営業CF<投資CFとならざるをえません)
「3-4年」営業CF<投資CFが連続していたら,黄色信号。
だって,本業の現金収入以上に,現金が流出し,借金でおぎなっているわけだから。
借金できなくなったら,アウトー
第一興商は,営業CF>投資CFで,よいですね。
つぎは,財務CF。
「お金を借りたことによって,現金が増えた」「配当して現金が減った」などを扱うセクション。
これも現金流入はプラスし、流出はマイナスする。
社債をぼこっと返済しているのが分かります。
新たな長期借入も減少していますね。
自己株式の取得による支出がありますから,自社株買いもしていることが分かります。
最後に、営業、投資、財務のCFを足し合わせて、今期全体の現金の増減が出てきます。
「今年は営業で281億円現金が入り、投資で214億円流出、財務で158億円流出、総計、現金は92億円減った。」
大きいところだけ改めて拾うと、「前期に不動産売却して入った89億円で、65億円の社債を返し、23億円の在庫をこさえた」という仮説がみえます。そうすると、在庫を意図的に大きくした、という可能性もあるわね。
CF計算書は,会計上の利益を補正していくかたちのため,直感的に読みにくい。
ただし,「映像使用許諾権の支出が1.4倍」みたいに,項目建ての関係で,新しい情報がわかることもあります。
減価償却費の増減なんかも,CF計算書の方が見やすいですね。BSやPLにはストレートには出てきません。
いずれにせよ,ほかの財務諸表と同じく,大きな数字や変化に注目していけば,面白い発見があるでしょう。
すべてを総括すると,
①本業のカラオケ機器販売は、今年はそこそこだが、原価上昇でジリ貧の可能性?詳しくは有報が出るのを待ちたい。
②在庫が増えているのが心配。それが意図的なものであれ販売不振の結果であれ、コロナ後に売り捌けるかな?
投資するかしないかで言えば、①の、「満足な分析できず」という時点で、あたしなら投資しない。バクチはしませんインデックスにも負けそうだし。
さてさて,いままで、決算書をざっとみていきました。改めて強調しておくと,
「本業でしっかり儲けている企業をさがす」!
会計方法の変更とか,一時的な不動産の売却とか,決算の数値にはたくさんのノイズがあります。それを除かなければ,本業で儲けているか,実はわからないのよ。
また,事業者相手にカラオケ機器を売るのと,消費者相手にお店でフードを出すのはまったく別の事業。だから,利益率も成長率も全部わけてみないと意味がない。セクションごとにみるのは,あたりまえ。
本業で儲かっている,あるいは損していることが分かったら,次は,その原因を特定する。長期的な原因?短期的なもの?
たまたまの減益で株価下落なら,長期的には買い。長期的要因での減益なら,長期で保有する選択肢はない。だって、ジリ貧でしょう。
意外に重要なのが,
「分析できない場合は,投資しない」
決算書が不親切で,セクターごとにきちんと分かれておらず,分析ができないとか。
増益の理由がはっきり書いていないとか。
その業界に詳しくなくて,増益理由が今後も継続するか,自信がもてないとか。
そういう場合は,容赦なく,投資対象から外します。
分からないのに投資するのは,ただの丁半博打。
こうやって,本業できっちり儲けている優良企業がみつかったら,残念!,
その優良性は既に株価に織り込まれていることが多い。
ので,あとは,外国のテロや災害,不祥事など,「本業の儲けに長期的には関係ない」事象で株価が下がったときに買いましょう。
だって,長期でみれば業績も株価ももどるんでしょ?
ま,バリュエーションの問題は完全に別論なので,後日,また~。
読んでくれて、ありがとう
たっぷり現金が入ってくる銘柄に囲まれた、良い一日をお過ごしください
↑ 押していただけると泣いて喜びます