大事なのはフリーキャッシュフロー
さいきん、企業価値評価の本を10冊くらい読んだので、大事なことをメモしておきます。
ふつう、投資先を選ぶときにはPLをみると思います。ちょっと経験者になると、BSもみて、在庫が過剰でないかとか、保有現金≒時価総額だーとか確かめたりしますが、基本はPL、つまりは「利益が出ているか」です。
日本の決算書もPLのサマリーが冒頭に掲げられていますね。キャッシュフロー計算書は2Qと通期決算のときに明らかになるに過ぎません。
で、この、「利益」ですが、キャッシュフローつまり現金の動きとはずれることがままあるのですね。
一番多いパターンが、「減価償却がおおい」場合です。つまり、大きな建物や工場を必要とするビジネス。本来なら、ビジネスの当初に5億円10億円だののキャッシュアウトがあるのですが、会計上、これを20年30年にわたって分割して経費化していくことになります。マイナス10億円だったのが、「利益」計算のうえでは、売上マイナス5000万円とかになったりするわけです。
これだと、「利益がガバガバあるけど、キャッシュは全然ない」という会社が生まれます。これに投資すると、「決算書はいいのに、なんでこんなPER低いんだろう」と嘆くことになります。というのも、企業の価値は、利益ではなくキャッシュベースだからです。企業の価値は、将来稼げるキャッシュの累積ー負債、だからです。「利益」ではないんです。
あとは、あんまりみかけませんが、「運転資本の増加がおおい」場合も「利益」が狂います。売掛金が多く買掛金が少ないと、「会計上の利益」があっても、キャッシュはでていくばかりです。逆に、保証料のように先に収入が入るケース、消費者向けサービスのように収入が即時にはいる(なのに支払いは掛けにできる)ケースは、「利益」が少ないのにキャッシュが多い・・・・なぜかPER高め・・・・というケースもでてきます。
amazonの決算書では、PLでもBSでもなく、フリーキャッシュフローの説明から始まるそうです。投資銀行出身のベゾスは、CF計算書がもっとも重要だとよくわかっているわけです。
CFが重要だ・・・と述べたので、逆にCFの弱点も押さえておきましょう。上記の裏返しになります。
つまり、「減価償却して経費を平準化する」ということがないために、単年度でみるとブレが激しいことがあるんですね。ですから、CFは数年単位で見ていく必要があります。
あとは、CF計算書、これも結構曲者です。まともに解説している本がほとんどないし。
構造としては、まず営業CF。その冒頭に純利益がきて、あとは
①非資金項目・・・・減価償却費やのれんの償却など、「キャッシュアウトがないのに経費扱いされている」ものがきます。キャッシュアウトはないので足し戻します。
②そのあと、投資や財務活動に含まれる損益項目・・・これは「営業」CFではないので、いったん控除します。固定資産の売却で利益がでていれば(営業による儲けではないので)引き、損失がでていれば(営業による損失ではないので)足し戻します。投資CFや財務CFのところで同じ取引を記載しなおします。
つまりこれは、①のように「会計処理があったけど現金の動きとズレがある」のではなくて、単に「CF計算書で表示する場所を替える」ための作業です。
③そのあと、売掛金、在庫、買掛金の増減と、ようやく、営業関係のキャッシュの増減が並びます。
投資CFでも財務CFでもないものは営業CFに入れることになっているので、かなり雑多な項目が並ぶことがあります。金額が多い場合は、精査する必要があります。
次が「投資CF」ですが、これが曲者です。
本来的な意味合いの「投資」・・・有形あるいは無形固定資産への投資。これはいい。問題は、有価証券の売買や預金預け入れまで、投資CFに書かれることです。定期預金を預けた、解約した・・・・どこが投資やねん。固定資産への投資以外は断固無視する必要があります。
ただし、敷金保証金の支出は、キャッシュアウトですから、フリーキャッシュフロー計算のときはキャッシュアウトとして扱わなければなりません。
退職給付引当金は、運転資本としてFCF計算のときに加味するか、無視して有利子負債扱いするか、2通りあります。
最後が「財務CF」です。借金の返済や借り入れ、配当が記載されます。ここの問題は、イファースの場合、オペレーティングリースの返済もここに記載される、ということです。
復習しておくと、リースは、ファインスリース・・・「借りる」形式になっているけど実は「借金して買っているのと変わらない」リースと、オフィスやCDを借りるなど、本来の意味でのレンタ、オペレーティング・リースがあります。
日本の会計基準では、オペレーティング・リースは、「賃料」などとして、経費で処理されます。BSにはでてきません。CFにも直接はでてこないです。
これが、イファースだと、「使用権資産」「リース負債」というのがBSにでてきて、賃料的なものは、「使用権資産の減価償却」というかたちで経費になります。CF計算書では、「減価償却」のところで出てくるわけですね。さらに、リース負債の返済が財務CFで出てきます。
家賃などの支払いとしてFCF計算のときに考慮するのか、借金とその返済とらえてFCF計算のときに考慮せず、事業価値を算定したあと有利子負債としてリース債務も控除するのか、つまりフローで捉えるかストックで捉えるか、いずれかに統一する必要があります。
amazonの決算書では、FCFの計算において、リースを考慮しないもの、リース元金を考慮したもの、リース全額を考慮したもの(一括で払ったと仮定するに等しい)の3通りが並んでいるといいます。自己資金で買ったか、借金して買ったか、借りたかで企業価値に違いが出ないようにしないといけませんね。
以上の通り、実はCF計算書って、雑多な性質のものがごっちゃに記載されています。現金の動きがないもの、「営業」CFではないから表示替えするもの、「投資」とは思えない預貯金の入金や解約・・・・・。「営業CF>投資CFなら良い」という簡潔なアドバイスは間違ってはいませんが、投資CFで有価証券の売却が多かったり、リースが多い場合は気をつけなければなりません。
ですから、PLをみるよりCFをみるべきでしょうね。
というのが、教科書的な結論。ただし、PLとCFがあまりずれない業種はあり、掛けの売り買いがない、在庫がない、重い固定資産がない・・・・そういう商売は実はPLをみれば足り、さらにあたしが選ぶような会社はだいたいにおいてそういう会社です。
逆に、でっかい倉庫を建てるようなamazonのように、シェア獲得のために大きな資本投下が先行する場合は、CFをみましょう。
今日も、ステキな銘柄に囲まれた良い1日をお過ごしくださいね。
suriaちゃん、こんにちは
最近株の勉強をサボっていたので、なんだかハッとさせられました。
PER低いのにCFがやばすぎてどこまでも株価が下がっていく企業、スクリーニングにかかってくるのはそんな企業ばかりなのでとっても参考になりますね。
僕もこれからはフリーキャッシュフローに特に注目して企業分析できるように練習頑張ります!
ありがとうございます、そう、利益はいいのでスクリーニングにひっかかってくるんですよね・・・あたしも気をつけたいと思います、自戒を込めて。