ドル円についてマジメに考える。
為替については、今まで、あまりマジメに検討したことはありませんでした。
「株で長期的に儲かっており、かつその手法が公開されている」ことはチラホラありますが、FXで長期的に儲かっているひとはみたことがありません(短期的に儲かって本を出版しているひとは大量にいますが)。
また、株は、究極、インサイダーレベルにその企業に詳しければインサイダー同様に儲かると思うのですが、為替って、どうも雲をつかむような話のような気がして、勉強する気になりませんでした。「勉強すれば儲かる確率があがる」ものなのかどうか、どうも分からないのです。これって、FRBの動向予想じゃなくて?なら、日本人のあたしが勝てるわけもない。
とはいえ。
S&P500を買うにしても円ヘッジつきで買うか否かの選択を迫られますし、ここまで円安が進むと、どこまで進むのか、考えざるをえません。あたしのポートフォリオは、海外展開をほとんどしていない企業で占められていますので、円安に強くはありません。ちょっと真面目に考えてみようと思います。
で。まず為替を動かす要因ごとに整理していきたいと思います。
1 購買力平価
日本で400円のビックマックがアメリカで2ドルなら、1ドル200円のはずだ・・・というやつで、直観的には説得力があります。ですが、これ、乖離しているのが常態なんですよね。
ドル円は消費者物価をずっと超えなかったのですが、ここ2年は完全に上抜けしてしまいました。
学術的な研究のうえでも、「殆どの期間において実際の為替レートは購買力平価が示唆する水準から乖離するが、平均回帰には数年を要するというのが学会のコンセンサスであり、平均回帰が起こらない可能性も排除できない」(「国際収支の基礎・理論・諸問題」棚瀬順哉編 財経詳報社280頁)とされています。理屈上も、「モノが同じなら同じ価格であるべき、というのは輸送の手間や関税を考慮していない」と批判されます。
今までのデータからして「平均にどこかで回帰する」と断言することすらできず、「一応の目安になるかも?」という程度に過ぎないんですね。PBRに似ていると思います。平時は参照されないけど、解散価値を下回ることは理論的にはないはず・・・・でもPBR1以下の企業もかなりある、みたいな。
とりあえず、現時点で消費者物価からみたドル円は108円。円高になるのではなく日本の物価の方がこれから10-20%あがるだろうという雑な推定を加えると、108円の10-20%増し・・・・とすると120-130円。ここが下限とはいえそうな気がします。110円はないだろうな。
2 金利平価
「金利が高い通貨は高い金利をもらえるけどインフレで減価していくのに対し、金利が低い通貨は金利はもらえないけど減価しないので、そこで平価するはず」という理屈ですね。もらえる金利分、通貨が安くなって均衡するはず・・・ということです。
理屈は通るんですけど、これも実は妥当しないんですね。というか、まさに今、金利が高いドルに対して円安がものすごい進んでいるじゃないですか。現実をみても、学術研究のうえでも、イマイチ為替を説明できないんですね。
逆に、「カバー無しの金利平価が成立するのであれば、キャリートレードの超過収益率の期待値はゼロになるはずであるが、実際には、少なくとも一定の期間においてはカバー無しの金利平価が成立せず、キャリートレードから超過収益が発生し得ることが多くの実証研究によって示されている」(上掲書288頁)ところらしいです。
つまり、「あれ、高金利通貨買っとくと儲かる・・・」ってわけです。そりゃ、みんな、買うわな。
ってことで、金利平価説はムシして、「金利が高くなればドルが上昇する」という実務では当たり前の前提を採用したいと思います。ここ2-3年は日米金利差に沿ってドル円が動いています。米国の利下げが進んで中立金利・・・・2026年以降に2.5%くらいになったとして、ドル円は130円くらいでしょうかね。インフレの再燃や利下げペースの鈍化といった特殊事情がなければ(ただしこの可能性はかなりあるとも思いますけど)、2年強かけて、130円に近づいていく感じ・・・・・購買力平価からの下値余地としても、110円はないので120円とか130円かな、と考えておきたいと思います。
3 政治と金利
じゃあ、上値余地はどうでしょうか。FRBが利下げするか分からなかった時点で160円です。
さらに、トランプ政権は明確に円安指向ですから、160円を試せばまた介入が発動される・あるいは介入警戒により動きは鈍くなるでしょう。
「金利が高くなればドルが上昇する」わけですが、これから強気の経済指標がでて利下げが遅れたとしても、上値は160円・・・若干の下振れ上振れを考慮しても162円とかじゃないかしら、と思います。逆に、弱気の経済指標がでて、早期利下げが意識されればまた140円台前半を試すことになるでしょう。
むろん、日銀はろくに利上げはできないので、日本の金利の動きを無視するのは言うまでもありません。
4 投機
別の側面からみてみましょう、為替取引の80%は実需ではなく投機と言われています。
投機筋のポジションをみてみると、最近のロングショートが均衡しているところでは、146円、147円といったところです。ここが、投機筋による歪みがない現状の数値といっていいと思います。
投機がなく、現在の金利差(かつ現状の利下げ予定)だと146、147円あたり・・・。
整理すると、
・トランプ政権誕生+介入警戒、過去レートからして、上値は160円くらいではないか。
・金利差・購買力平価からすると、下値は120-30円くらいではないか。
・現状では投機筋の動きがはげれば146-147円くらいではないか。
というところで、146円を中心に、下限130円、上限160円として、米国の経済指標で動く(強い指標→利下げ後退→ドル高)・・・というところかなと思いました。
もしそうであれば、たとえば155円とかだともう円安余地は限られていると言え、「ここからさらにドル建て資産を買う」のはちょっとなあ、ということになります。ドル建て資産は140円台前半で買えれば悪くない・・・というところかな。
トランプ政権については、景気浮揚を目指す点でインフレが進んで金利が高くなるとも言えますが、貿易対策でドル安を目指す・・・シェールガスを増産して無理矢理ガソリン代を下げ、かつFRBに利下げ圧力をかける、なんてストーリーもありえないではありません。
まあ、一国の大統領と言えどそう簡単にインフレ率を左右できるとは思いませんが、現時点で何か確固たる予想をたてるのは(少なくともあたしには)無理かな、と思いました。
今日も、ステキな銘柄に囲まれた良い1日をお過ごしくださいね。